村田沙耶香『生命式』を読んだ感想【ネタバレ注意】

村田沙耶香『生命式』を読んだ感想【ネタバレ注意】

コンビニ人間』で芥川賞を受賞された村田沙耶香さんの『生命式』という短編を読みました。

クレイジーな設定の中に、現実世界と照らし合わせて感じたことがあったのでメモ( ..)φ

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生命式の簡単なあらすじ

夫も食べてもらえると喜ぶと思うんで――死んだ人間を食べる新たな葬式を描く表題作のほか、村田沙耶香さん自身がセレクトした脳を揺さぶるような12篇で成る短編集です。

人が死ぬと、その人肉を食べる「生命式」が行われる世界。

死んだ人間の命を紡いでいく。

性行為はセックスという言葉ではなく「受精」という、ひそひそとするものではなく、神聖なものとして扱われる。

少子化が進んで、「人が増える」ことが正義な世界でのお話。

恋人関係というわけではないんだけど、仲の良い男女のうち、男の方が亡くなって、その肉を女の人が食べる描写が書かれています。

「豚の角煮」のテンションで、「田中さんの角煮」とか言っちゃう、そんな世界観です。

読後の感想

常識、倫理について

「わかるー。人肉を食べたいと思うのって、人間の本能だと思うー」

おまえら、ちょっと前まで違うことを本能だって言ってただろ、と言いたくなる。

本能なんてこの世にはないんだ。

倫理だってない。

変容し続けている世界から与えられた、偽りの感覚なんだ。

p22

(この物語の中では)つい30年前まで、「人肉を食べたい」なんて言うと「そんなこと言うとバチがあたるよ!」などと言って怒られていた、つまり、現代の僕らが生きている世界観だった。

でも、情勢が変わった。人が少なくなったから、増えることが正義となり、命を紡いでいくことが普通になった。

 

僕らは環境に大きく左右されることをすぐ忘れてしまう。

たまたまだけど、今日読んだ他の本に、「日本人の平均年収は400万円程度。これは世界全体でみると、上位5%に入る富裕層だ。」と書かれていた。

日本に生まれただけで、ガチャガチャ大当たりというのは、お金による豊かさで言えば正解だ。

だけど、僕らの感覚はどうだろう?

人よりちょっとお金がないだけで、「自分は貧乏だ」とか「お金持ちのあの人が羨ましい」とか。

平均点を取るだけで、世界の上位5%に入るような裕福な日本という国に住んでいるのにも関わらず、足りないと感じてしまう。

 

日本よりもうんと貧しい国にいっかい放り出されればいい。

もっとラフに、嫌なことをやめてみるとか、恥ずかしいことをしてみるとかでもいいかもしれない。

自分のいる閉じた世界からはみ出してみれば、自分が世界に無数にある「たったひとつの常識」の中に気づけるに違いない。

「○○したら、場違いだ」とか気にしなくてもいいのかもしれない。

 

余談。

僕は名古屋に住んでいるんだけど、このまえ金山駅で“AKBのような女装をして路上で歌っているおじさん”がいた。

想像に難くないよう周りの目線は歩きながらも“AKBおじさん”の方に向けられていて、笑う人もいれば、手を振ってる人もいた。

それはもちろん珍しいから。

じゃあ30十年後、男の人が女装をするのが当たり前の世界。一般の人でも路上でパフォーマンスをするのが当たり前の世界に“AKBおじさん”がいても、単なる日常の風景として見ることになるだろう。

常識ってそんなもん。

みんな嘘をついて生きている

「俺さ、ディズニーランド好きなんだ」

(中略)

「あそこってさ、誰も、着ぐるみの中の人の話しないじゃん。

みんなが少しずつ嘘をついてるだろ。

だから、あそこは夢の国なんだよ。

世界もそれと同じじゃない?みんながちょっとずつ嘘をついてるから、この蜃気楼が成り立ってる。

だから綺麗なんだよ。一瞬のまやかしだから」

p24

ディズニーの例え、的確過ぎぃぃいい!!

なんか、わかるわ~。この感覚。。。

まさに、ディズニーに行ったときとか、ミッキー見つけたら「うお!ミッキー!!写真撮ってもらお!」とか思うし、みーんなそうやってテンション上がるわけだけど、中身が人間だなんてみんな知ってるのにね。笑

 

この物語の中では、人肉を食べる、セックスをそこら中でする、ということが当たり前の世界に徐々に変わっていった。

「え、30年前までそんなことありえなかったじゃん?じゃあ、真実ってなんなの?」

「だから、蜃気楼こそが真実なんだよ。

俺たちの一欠片の嘘が集まってできた、今しか見られない真実なんだよ」

p24

「嘘」で世界が作られてるって、めっちゃ人間っぽい。

「嘘」が何で、じゃあ「真実」はどんなもので、そこらへん見間違えると生きづらいなって思った。

テレビドラマとか映画って、わざと作られた世界で、いわば「嘘」なんだけど、見てると感情移入しちゃうし、主人公を応援したくなったり。

同じくテレビに映ってるアイドルは「真実」で、ドラマの主人公と同じように感情移入して見ていたり。

SNS上の他人のキラキラした「嘘」に嫉妬したり。

「楽しめばいいんだよ、この一瞬の嘘の世界をさあ」

p25

「正常は発狂の一種」という言葉

世界はこんなにどんどん変わって、何が正しいのかわからなくて、その中で、こんなふうに、世界を信じて私たちは山本を食べている。

そんな自分たちを、おかしいって思いますか?」

「いえ、思いません。

だって、正常は発狂の一種でしょう?

この世で唯一の、許される発狂を正常と呼ぶんだって、僕は思います。」

p44

常識とか、倫理は、変容し続ける世界から与えられた偽りの感覚で、

それでいて、この世界はみんながちょっと「嘘」ついて出来ていて、

そんな世界で「正常」なんてもの、ないよねぇ~~~~~~~~~。

アインシュタインだっけか、エジソンだかが、「常識は、大多数の偏見」って言葉を残していたと思うけど、それに近い気がする。

 

この『生命式』という短編と、『コンビニ人間』もそうだったけど、

全体を通して、自分が信じてきたものをグラグラと揺らがされる感覚がある。

ありえない設定なはずなのに、「あれ、この世界って何かおかしいっけ?ってか俺が信じてる正しさって本当?」みたいに。

あと、人肉食べるときの描写リアルすぎw

村田沙耶香さんたぶん人肉食べたことあると思う()

クレイジー沙耶香さんの作品は、エンターテインメントであり、純文学みがあって好き。