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ゆうすけ
今回は、角川文庫から出版されている芥川龍之介の短編集『羅生門・鼻・芋粥』の中から、特に印象深かった「鼻」という物語についてお話しようと思います。
芥川龍之介は短編が凄く有名な作家で、今回紹介する「鼻」という短編は角川文庫のこの本で11ページという短い文量で書かれています。
「鼻」は、あの夏目漱石に絶賛されたというのは有名な話です。
ちなみに、芥川龍之介の『鼻』は青空文庫で読むことができます(リンクはこちら)。
ゆうすけ
芥川龍之介『鼻』あらすじ
京都に、その長さが顎の下まであるほど長い鼻を持つ僧侶がいました。
形は、元も先も同じように太くて、ぶらりと顔の真ん中からぶら下がっています。
周りを見渡しても、鼻の先がちょっと下を向いている鍵鼻の人がいるくらいで、そんなに長い人は他にいません。
禅智内供の鼻といえば、池の尾で知らない者はいない
(p47)
禅智内供というのは、その鼻の長い僧侶のこと。
池の尾は、京都府宇治群にある地名のことです。
ゆうすけ
僧侶が鼻の長いのをよく思わない理由は2つありました。
ひとつは、シンプル不便だったからです。
ゆうすけ
食事をする際に、鼻がお椀の中のご飯に届いてしまうから、弟子に持ち上げてもらいながらご飯を食べないといけないというわけです。
もう一つ、よく思わない理由は、これが一番の理由で、自尊心を傷つけられるからでした。
弟子に鼻を持ってもらわないと食事ができないなんて、そりゃ申し訳ないわけです。
弟子がくしゃみをして、鼻をお粥の中へ、落とした話は、もう笑い話として世間に広まったそうです。笑
ゆうすけ
「あの鼻では誰も妻になる人なんていないよな」と町の人に噂されます。そりゃ、傷つきますよね…。
いろんな方法で、鼻を短く見せようとするんだけど、どれも上手くいかない。
そんなときに朗報が!
弟子「医者から、長い鼻を短くする方法を教わってきました!」
内供「まじかよ」
弟子「その方法というのは、お湯で鼻を茹でて、人に踏ませるというものです!」
内供「まじかよ」
その通り、やってみたら、あら不思議。本当に鼻が短くなっちゃった!
「これで、よかった、もうバカにされない」とのびのびした気分になります。
しかし!そうやって安心したのも束の間。
人々は、僧侶の短くなった鼻を見て、前より一層おかしそうな顔をして、笑い出したのです。
あの、くしゃみで鼻をお粥につっこんだ弟子さえも、吹き出してしまう始末…。可哀想すぎる…。
このとき、僧侶はあることに気が付きます。
人間の心には互いに矛盾した二つの心がある。
もちろん、誰でも他人の不幸に同情しない者はいない。
ところが、その人がその不幸を、どうにかして切りぬけることができると、今度はこっちで何となく物足りないような心もちがする。
少し誇張して言えば、もう一度その人を、同じ不幸に陥れてみたいような気にさえなる。
(p55)
そうなると、僧侶は鼻の短くなったのが、かえって恨めしくなるんです。
そんなことを考え、一晩にして眠りから目覚めると、鼻は元の長さに戻ってしまいます。
すると今度は、鼻が短くなったときと同じように晴れ晴れした気持ちになります。
こうすれば、もう誰も哂うものはないにちがいない。
(p57)
感想
以上が、「鼻」という物語のあらすじです。
周囲の反応って本当に勝手なものだなと思いました。あと主人公のお坊さん可哀想すぎ。
正の感情
中国の思想家である孔子の後継者として有名な孟子は「性善説」を唱えました。
これは「人は生まれながらにして善の心を持っているよ」というものです。
ゆうすけ
- その子を助けたら報酬がもらえる
- 町のヒーローになれる
可哀そうになっている子供を助ける際には、このようなイヤらしい損得勘定はないはずです。
高齢者による交通事故・放火事件による殺害、それらのニュースをみて、痛ましい気持ちになるものです。
負の感情
そうやって、人間には誰かの不幸に同情する感情が備わっているにも関わらず、全く反対の感情である「誰かの不幸を望んでしまう」という負の感情も存在します。
それは、さっきの性善説のような正の気持ちよりは、軽いものだと思います。
- 他人の成功が気に食わない…
- 人が幸せそうにしているのを素直に喜べない…
- リア充爆発しろ…
ゆうすけ
そういうことを考えてしまう自分に嫌気がさすときもあります。なんでオレそんなこと考えちゃうんだろうって…。
自分が嫌な人間だということを、表に出したくないから封じ込めている、本性とか人間の醜さというドロドロしたもの
芥川龍之介の短編は、短くズバッと、こうやって架空の物語を通して、僕らに見せつけてきているように感じました。
醜い部分は誰にでもある
- 「鼻が短くなったら幸せ」「●●だったら・・・」というタラレバの間違い
- 周囲の人間がいかに、本人の心に無頓着であるか
- 人の不幸が自分に降りかからないことの安堵
- 不幸だった人が、幸せになってしまう嫉妬
「人間って醜いね・・・」と思うことを巧みな物語で表現することで、「みんな隠してるけど、人ってこんなことも考えちゃうよね」と、こんな風に考えてしまうのって自分だけじゃないのか、と教えてくれたような気がしました。
まとめ
今回は芥川龍之介の「鼻」という物語について話しました。
芥川龍之介の作品は初めて読んだのですが、こんなヘンテコな設定の物語だとはびっくりしました。
国語の教科書にも載っている『羅生門』もぶっ飛んだ話ですが、短編全般的に「人間の醜さ」を見せつけられた気がします。
ゆうすけ