本サイトはプロモーションが含まれています

マルサス『人口論』の要点をわかりやすく解説|イギリスがつくりだした刺客

1766‐1834。古典派経済学を代表するイギリスの経済学者。32歳の時に匿名で出した『人口論』(初版)は当時のイギリス社会に大きな衝撃を与えた。

Amazon

マルサス『人口論』の要点解説

人口増加は食料生産よりもはるかに大きい

マルサスは、次の二つを自明の前提として論理を展開します。

  • 第一に、食糧は人間の生存にとって不可欠である
  • 第二に、男女間の性欲は必然であり、ほぼ現状のまま将来も存続する

この前提は、これまでも、そしてこれからも変わることはないでしょう。とするとマルサスはこう主張します。

「人口が増える力は、土地が人間の食料を生産する力よりもはるかに大きい。人口は、何の抑制もなければ、等比級数的に増加する。たいして生活物資は等差級数的にしか増加しない。

マルサスは人口についてアメリカ合衆国を例に出しています。

アメリカはヨーロッパのいずれの近代国家よりも、生活物資が豊かであり、ひとびとは純朴で早婚の抑制も少ない国である。

アメリカでは人口がわずか25年で2倍になった。

 

一方、食糧の増加率について地球上の任意の一点、島国のイングランドで見てみる。

この島国で、もっとも多くの土地が開墾され、農業がおおいに奨励されるなど、最良の政策がとられた場合、農業生産は最初の25年で倍増するかもしれない。

しかし、次の25年で生産がさらに倍(4倍)に増加することはありえない。

4倍増というのは、土地の性質にかんする常識に反するからです。

 

人口は倍々ゲームで増えていくのに対して、食糧は生産設備や土地の有限であるため人口と同じように倍々で増えていかない、というのは直感的にもわかりやすいですよね。

貧困問題が訪れる

マルサスはなぜ、人口論を書いたのか。

当時のイギリスは産業革命のさなかで、人口が増えることで労働力が増して、どんどん豊かになっていた。つまり、人口増加は国を豊かにすると考えていたのです。もちろん、人口が増えることにより経済力が増すという側面もあります。

ですがマルサスは、シンプルな二つの前提条件から導かれる「人口増加>食糧増加」の未来が訪れることに警笛を鳴らしたのです。

「人口が増えるけど、食糧は足りない」という状況になれば当然、食に飢える人がでてきます。

そこで、国が貧しい人たちを救うためにお金や食料を給付すると、食糧の価格は上がり、実質的に労働賃金が下がるため、多くの労働者が被害を受ける。

そう、これが後の社会主義・共産主義(資本や財産をみんなで共有する平等な社会体制)につながる第一歩だったというわけです。

人口論は正しいのか?

マルサスが『人口論』を出版したのが1800年頃。マルサスが描く悲劇はそう遠くない未来に訪れると書いています。

実際に、食糧生産が人口増加に追いつかなくなる未来はきたでしょうか?

それこそ日本は国土が小さな島国ですが、人口増加どころか人口は減っていますよね。そして、その原因が「食糧生産が追いつかないから」でないことは明らかです。

 

マルサスは自然法則をあまりにも誇大視していたようです。

マルサスの時代には医学的メカニズムについて詳しいことはわかっていなかったし、そもそも性欲と人口増が直接比例するわけではない。人間はもっと複雑な存在だからです。

未開墾地を含めて、食糧増産の方法は、そのあと科学の進歩によって進んでいる。だからマルサスの予測はそのあと幸いにも外れていると言える。

 

ただもちろん、人口増が食糧に規定されていることも間違いではないし、人口増加のほうがスピードが早いこともたしかです。

マルサスが『人口論』を書いたとき、地球上には8億人いたそうです。そのあと200年で60億人まで増えた。ここで、35年で世界の人口が2倍になったのに対して、食糧生産は1.9倍にしか伸びなかったそうです。

だから『人口論』がまったく古いもの、というわけではないと言えます。

イギリスがつくりだした刺客

光文社古典新訳文庫(斉藤 悦則さん)の解説文を引用します。

マルサスは、フランス革命の解毒剤としてイギリスがつくりだした刺客である。

p295

マルサスは、まるで悪役レスラーのように罵声を浴びながらも、人間社会にとってなくてはならない敵役として登場し、時には真実の声、時には資本の手先として活躍する。

p299

人口が増えることに対して危機感を抱かずに経済発展を遂げるイギリスに「このままだとやばいぞ」と警笛を鳴らす。しかもその理論は、等比級数と等差級数という高校の数学さえわかれば気づくようなシンプルなものである。

ゆえに、マルサスの主張である『人口論』は今もなお読み継がれる名著というわけです。